2018August

8月号

マウスウォッシュに
性病予防効果あり!?
マウスウォッシュに性病予防効果あり!?マウスウォッシュに性病予防効果あり!?

01

オーラルセックスで
喉に感染

あまり広くは知られていないのですが、性感染症は、喉にも感染します。
感染経路は、オーラルセックス。

性感染症は、性行為で感染する病気なので、そもそもは性器の粘膜に感染します。
最近は、オーラルセックスがあたりまえに行われるようになっており、性器と喉が接触する機会が出てきました。
喉にも性器と同様、粘膜があります。性感染症の病原菌からみると、喉は性器と同じように住み着きやすい場所というわけです。

喉に感染する性感染症には、例えばクラミジア淋菌梅毒ヘルペスなどがあります。

特に注目なのは、淋菌の咽頭感染です。
実は、口の中には、淋菌と遺伝子的に似た常在菌が存在しています。
どれくらい似ているかというと、SDA法などの古いタイプの遺伝子検査法で検査した場合、 淋菌はいないのに、間違って陽性となってしまうこともあるくらいです。
仲間の菌がいるので、淋菌にとっては口の中はとても住みやすい環境です。
そのため、治療しても治りにくかったり、薬の効かない耐性菌が現れてしまったりと、やっかいな病気なのです。

02

マウスウォッシュで
咽頭感染が防げる!?

オーラルセックスの時にマウスウォッシュでうがいをすると、のどへの感染を予防する効果がある、なんて噂がまことしやかに囁かれています。聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。
実際、性風俗産業の現場では、性行為の前にイソジンでうがいをすることが通例となっているようです。

確かに、口の中の菌を洗い流すという意味で、ある程度の予防効果は期待できそうです。
しかし、それをきちんと調べた研究はこれまでほとんど無く、実際にどの程度の効果があるのか、はっきりしたことはわかっていませんでした。

03

淋菌を抑制する効果あり!
その研究の結果とは

そんな中、2017年オーストラリアの研究チームが、イギリスの医学誌「Sexually Transmitted Infections」に、ある論文を発表しました。
その研究によると、マウスウォッシュ(口腔洗浄液)のリステリンに、淋菌の咽頭感染を抑制する効果があるというのです。1)

研究ではまず、実験室内での効果が検証されました。
アルコールを含むリステリン2種類(クールミント、トータルケア)を様々な濃度に調整し、そこにクリニックで採取された淋菌を加え、1分間おいた後に、培養しました。
その結果、リステリンに加えた淋菌は、著しく減少。一方、比較対象の生理食塩水(リン酸緩衝生理食塩水)では、淋菌に対する抑制効果はみられませんでした。リステリンの効果で淋菌が抑制されたと考えられます。

では、実際に人がうがいをした場合でも効果はあるのでしょうか。
研究チームは、咽頭に淋菌が感染した被験者を2つのグループに分け、一方のグループにはリステリンで1分間うがいをしてもらい、もう一方には生理食塩水で同じようにうがいをしてもらいました。
その後、咽頭の表面を拭って検査をしたところ、リステリンでうがいをした被験者の48%で淋菌が検出されなくなったのに対し、生理食塩水のグループでは16%でした。

うがい前後の咽頭淋菌陽性率の変化うがい前後の咽頭淋菌陽性率の変化

この論文では、手軽に購入できるリステリンを毎日使うことで淋菌の予防につながる可能性がある、と結論付けています。

ちなみに、その後のフォローアップ研究では、少し視点を変えて、定期的にマウスウォッシュを使う人が淋菌に感染しにくいかどうか、ということが調べられました。2)
しかし残念ながら、この研究では明らかな効果は認められませんでした。

04

つまり、
マウスウォッシュを使えば良いの?

STDの予防 いろいろな方法

「リステリンが喉の淋菌に効く」
しかし、それがすなわち「毎日うがいをすれば、オーラルセックスで予防しなくても大丈夫!」ということではありません。
研究結果から分かったように、効果はあるものの、限定的です。

やはりもっとも効果のある予防はコンドームです。
オーラルセックスのときもコンドームを使うのがより確実な予防法で、厚生労働省もオーラルセックス時の予防を呼びかける啓発活動を行っています

オーラルでも、うつります。性感染症。

出典:厚生労働省

ただ残念ながら、STDの予防において、100%万能な方法はありません。
コンドームも、クラミジアや淋菌にはかなりの効果がありますが、梅毒ヘルペスに対してはそうはいきません。
また、時にはどうしてもコンドームが使えなかった、ということもあるでしょう。

STDの予防で大切なのは、いろいろな方法を知っておき、状況に合わせて実践することです。

リステリンが淋菌の感染予防に効果がある、ということを知っておけば、
やむを得ずコンドームが使えなかった時などに、少しでもリスクを減らすための行動が取れます。
同時に効果が100%ではないことも心にとめておき、防ぎきれなかったと感じたときは、早く検査を受けること。

早くわかって早く治療を受けることは、ご自身にとっては重症化の予防であり、パートナーに対しては、感染の予防になります。

必ずしも「コンドームを使えなかったからダメ」、ということではありません。
ぜひ、その時々に応じて、適切な予防法を選んで実践するよう心がけてください。