HIVの母子感染について妊婦健診は大切です

妊婦検診はとても大切です

ほとんどの産婦人科では妊娠3ヵ月頃に初期検査を行います。検査の中でもHIV検査は妊婦さん自身の同意のもとで受けることができます。大半の方はHIV検査を受けられますが、中には検査を受けない方もいらっしゃいます。
妊娠初期にHIVに感染していることがわかれば、お母さんは適切な治療を受けられますし、赤ちゃんに感染しないように対策をとることができます。

赤ちゃんにHIVはうつるの?

HIVに感染していることに気づかないで出産すると赤ちゃんへの感染率は約30%となりますが、妊娠初期に感染がわかり、適切な対策をとることができれば赤ちゃんへの感染率は1%以下と言われており、ほとんどの赤ちゃんが感染せずに生まれてくると言えます。
適切な対策とは、具体的には「服薬+帝王切開+人工授乳(母乳を与えない)」となります。

母子感染を予防するための対策

・妊娠14週以降、抗HIV薬を服用する
・分娩時には抗HIV薬を点滴する
・分娩方法は予定帝王切開とする
・断乳する(母乳は与えず、粉ミルクを用いる)
・赤ちゃんに抗HIV薬(レトロビルシロップ)を6週間飲ませる
(参考: 女性のためのQ&A 診療・ケアのための基礎知識 第2版)

服薬については、母親のCD4数、ウイルス量にかかわらず、HAART(多剤併用療法)を開始する方法が主流になっています。
なお、薬の選択においては、妊婦に対する副作用などの問題や実績面を考慮し、レトロビルという薬を組み入れることが基本となっています。

分娩は、日本では帝王切開が推奨されています。この帝王切開は計画的に行うもので、陣痛が始まってから緊急に行う帝王切開ではありません。陣痛が始まってからでは胎盤から漏れる血液により子宮内の赤ちゃんに感染する可能性があるからです。帝王切開による感染率は0.45%に対し、経腟分娩の感染率は20.69%とのデータもあります。

赤ちゃんが生まれたら、HIVに感染しているか調べる必要があります。検査は出生48時間以内、2週間後、2ヵ月後、3~6ヵ月後の4回行います。陰性であれば9割以上の確率で感染していないと言えますが、最終診断は1歳6ヵ月時点で行われます。

育児については、赤ちゃんに母乳をあげることは避けなければいけません。母乳にもHIVが含まれているからです。断乳して粉ミルクで育てる必要があります。また妊娠中に母親に投与した抗HIV薬の赤ちゃんへの影響は、まだよくわかっていないので定期的に小児科で受診することが必要です。

HIVに感染しても妊娠できる?

では、HIVに感染している夫婦は、お互いに感染させることなく妊娠することはできるでしょうか?
これには人工授精や体外受精という方法があり、国立国際医療研究センター病院や、荻窪病院など、いくつかの施設で行なわれています。
ただし、赤ちゃんを望む場合は、自身の抗HIV薬の服用や、赤ちゃんへの感染リスク、出産後の養育問題など、さまざまな面をしっかり考え、関係する周囲の人たちと充分に話しあった上で結論を出すことも大切です。

妻がHIV陽性で、夫が陰性の場合 (人工授精)

夫の精液を妻の子宮内に注入します。人工授精は、不妊症に対する治療方法の一つとして一般的なものです。
お母さんとなる女性の状態の良い時期に妊娠・分娩を計画的に行うことができ、適切な母子感染予防策をとることができます。

人工授精の基準 (国立国際医療研究センター病院)※一部抜粋
(1)現在、無症状でエイズを発症しておらず、長期存命の可能性が十分ある。血中ウイルス量は問わないが、CD4数200/μℓ 以上
(2)夫はHIV陰性
(3)婚姻している夫婦で、かつ、子の養育が可能
(4)以下の検査に異常がなく、人工授精によって妊娠が可能と考えられること
基礎体温、女性ホルモン検査、卵管通気検査、超音波検査、黄体機能検査、精液検査、子宮頚部細胞診、性感染症(夫婦共)

夫がHIV陽性で、妻が陰性の場合 (体外受精)

妻の卵子と精子を取り出し、体外で受精させます。夫の精液の中にはHIVが含まれていますが、精子の核内には含まれていないとされています。特殊な技術を用い、精液を慎重に洗浄することでHIVを分離し、受精に充分な量の精子を取り出すことが可能になっています。この精子と妻の卵子を体外で受精させることで、母子ともにHIV感染することなく出産できるようになってきています。

HIVに感染している人は増加しており、しかも若い年齢層の感染者ほど女性の割合が高くなっています。
あなた自身の健康と赤ちゃんの健やかな誕生のために、妊婦検診でHIV検査を受けることをぜひおすすめいたします。